不動産テックで事業部CTOをやっていたと思ったら、HRBrainでEngineering Managerになってそろそろ3ヶ月が経とうとしています。
HRBrainはEQTという約37兆円の資産を有する投資会社が資本参画したHR系のSaaSスタートアップです。CTOやマネージャーを長年勤めてきたことで、タレントマネジメントや評価、労務管理のためにHR系のプロダクトを触る事が多くなり、元々ドメインには興味を持っていました。
常々これらのプロダクトを「もっと良くできるのでは?」と感じていたのもあり、今回転職をすることにしました。入った直後からやるべき事は多くありなかなか大変な状況ですが、「採れる選択肢」も多いことで、楽しく働いています。
人材データプラットフォーム関連市場は約8兆円もあると言われており、日本の労働人口問題と絡めて考えてもまだまだこれから伸びていく市場だと実感してます。
本題ですが、新しい組織に飛び込むたびに考えているのは「何をいつどう標準化するか?」の話です。
スタートアップでは「自主性」を尊ぶわけですが、ある程度の規模のサイズまで組織が成長すると「標準化」と「属人化」のバランスを取らなければならなくなります。
何もかも自由だった時代とは別れを告げなければいけません。
そうでなければ、結局速度が出せなくなり組織としてもチームとしても成長が鈍化するからです。
そもそも「標準化」とは?
手順や水準を定め、社内で認識を統一することです。
例えば、新機能を開発する際において「まず、PdMがPRDを書く。全社からレビューやコメント(Request for Comment)を受け付ける。その後、意志決定者からレビューを受け開発承認される」というフローを定めます。
このフローを決めることの最大のメリットは「早期に重要なフィードバックを得て無駄を省ける」ことです。
「何を作るのか」がチーム内で共通の認識となりますし、「何の機能が、いつ、どのようにリリースされ、どう使われるのか」が関連部署(他のチームやセールスなど)に共有されやすくなります。
新入社員であっても「PRD一覧」をチェックすれば何の機能がどのチームで開発されているか、いつリリースするつもりなのかを知ることができます。
デメリットとしてはチームが「あれやろう」「これやろう」というレベルで意志決定をしていたときに比べると「めんどうくさい」と感じるようになることです。
どうして「標準化」などという面倒なことをやらなければならないのでしょうか?
あれこれ決めるのはチームで好きにやった方が早いのではないでしょうか?
実際には成長組織において属人化が増えると都度都度意志決定が必要になるだけでなく、認識がバラバラのまま組織全体が違う方向に進んでしまったり、防げたはずの間違いを犯しての手戻りも多くなるため加速度的に非効率化が進みます。
標準化を行うのはあなたの大切な時間を節約するためでもあります。
まず標準化を検討すべきもの
これは3つあります。
- 人材、等級、期待値
- コミュニケーション
- パーパス、ミッション、バリュー
人材、等級、期待値の標準化
小さなスタートアップだった時は面接や評価のやり方も判断も何も標準化されていません。
採用であれば知り合いに声をかけたり、仕事が出来そうな経歴の人が組織に加わったりします。
評価も「今期は頑張ったね、来期も頑張ろう」で終わったりします。
やがて、人が増えると徐々に組織に不満が生まれます。
「評価のされ方が明確ではない」
「何を期待されているかわからない」
「新しく入ってきた人のスキルレベルが低い」
「人が足りないのにチームには人がアサインされない」
(以下、無限に続く)
決めなくても何もかもうまくいっていた時代は遠い昔のことになります。
この標準化の第一歩は意志決定者(できればあなた)が「採用のフィルター」「評価のオーナー」になることです。
「どういう人材を、どういう期待値で、何をやってもらうために、いくらくらいの給与で採用するのか」
「誰をどのチームに配置し、リーダーに任命し、どういう行動や成果を高く評価するのか」
必要なポジションの採用のためにJDを明確にしたり、社内での等級や給与レンジなどを踏まえて、期待値を明確にし、キャリアラダーを記述することになるでしょう。
目標設定の妥当性や、従業員の成長実感、評価の納得感などは「説明可能」で無ければならず、「評価者Aさんはこう言ってたけど、評価者Bさんは違うことを言ってて、あそこのチームはズルい」といったことはなくすべきです。
採用や評価に一定の基準を設けることで、組織をより強い状況に導くことになりますし個人の成長にも大きく影響します。
コミュニケーション
コミュニケーションにまでルールが必要でしょうか?
もちろん、必要です。
人が増えてくると、「聞いてなかった」「知らなかった」「共有されていないのはおかしい」「必要なMTGに呼ばれていない」などと、様々な問題が生じます。
組織が拡大するにつれ、人間が認知できる人数の上限(ダンバー数)を超えることになるからです。
人が増えればチーム間のコミュニケーションパスが標準化される時もやってきます。
Slackでチームチャンネルを作って、その中で話をしていれば良かった時代は終わりです。
「オープンに話されているんだから、必要な人は情報を持って行ってね」では組織は回りません。
プル型の情報、プッシュ型の情報整理は不可欠です。
普段から情報の洪水に襲われている私たちが「必要な情報を必要な場所からつかみ取る」なんてことはできません。
- プル型:この最新情報(例えば、各チームの体制や取り組んでいる機能)はNotionのプロダクトページに置いてあるから必要に応じて見てください。
- プッシュ型:Aさんがチームリーダーになりました。これからはHogeプロジェクトの開発の牽引と○○機能の開発を推進していただきます。
……のように使い分けをするべきです。
特に複数チームが連携をするようになると途端にパスが複雑になります。
「聞いている」「聞いていない」だけではなく、「思っていたのと違った」ということが頻発します。
これを何とかしようと思って会議を増やすと「共有ミーティング」だらけの毎日に突入し、あっという間に時間を浪費します。
にも関わらず「共有していたはずなのに」複数チームが絡むような開発が遅延したり、失敗するようになります。
コミュニケーションパスを適切に標準化するのはあなたの「認知負荷」を下げるためです。
パーパス、ミッション、バリュー
パーパス、ミッション、バリューも標準化されるべきものです。
これは簡単に言えば「文化と価値観の標準化」です。
これらを定めなければ「組織が何に魂を持っているのか? 何と戦っているのか? どうやったら勝つのか?」がわからなくなります。
特にバリューは日々の判断基準や評価、言動にも深く関わってきます。
これらを宗教的だ、気持ち悪いといって敬遠する人もいますが、バリューが本当に上手く機能している時は「組織に異物がない」と感じるようになります。
なぜなら、全社員が同じ方向を向き、同じ判断基準の下で同じことのために仕事をしていると感じられるからです。
スポーツで想像してみてください。
サッカーというスポーツはボールをゴールに入れ、その点の多寡で勝利を競います。
もしこのルールが定まってなければ、選手はフィールドに立ちすくむだけでボールを手でつかんで投げたり、キャッチボールを始めるかもしれません。ルールが無ければゴールの前にキーパーはいないでしょうし、誰かがネットによじ登って遊び始めてもおかしくありません。
そのための組織のルール制定が「文化と価値観の標準化」です。
組織とは、得意不得意が違う人たちが集まって、1人ではなし得ないような大きな目的を達成するためにあるのです。
他に標準化が検討できること
プロジェクトの管理や目標設定、マネジメントラインなど標準化を検討できることは山ほどあります。
オンコール体制やインシデント対応、問い合わせ対応、セキュリティ対策なども検討すべき項目です。これをしない場合、「特定の人だけが対応している」という状況に陥り、○○さんにお願いするしかない、ということが頻発します。
最初からすべてを上手く標準化することはできないので、「単純なことで失敗した」という経験の積み重ねから、誰かが手を挙げて実行することも重要です。
都度都度で意志決定をしたり、誰かに判断を仰いだりするようなことが減ればそれだけ日々の仕事は快適になっていきます。
ただし、完全な標準化はできないため、常に例外も含めて想定すべきです。
組織が成長する限り「標準化は陳腐化する」ことを忘れてはいけません。
絶対に標準化してはいけないこと
反面、標準化を絶対にしてはならないこともあります。
例えば個人の働き方に関して「子供のことなど気にせず、業務時間は業務に集中すべきだ」などと言えば家庭は崩壊し、やがて生産性の低下を招きます。
働き方を標準化しても逆効果なだけです。
同様にチームの中で完結するような細かいやり方を標準化しても意味がありません。
優秀な人材にも「標準」を当てはめない方が良いです。
時には遊撃隊のように動き、時には組織全体の問題に取り組み、対外的な個人活動も行う。
これは「特別扱い」や「好き勝手にやっている」とみられることもあるのですが、トップパフォーマーというのは平均的な開発者と比べて数倍の効率を持っているので、それを妨げるべきではありません。
給与もテーブル上の上限はこれだから、といって制限することも間違っています。
その小さな拘りによって、最大の戦力を失う羽目になります。
最終的に組織が勝ちきるためには「組織を牽引できる存在」が必要なのです。
理由なき標準化もまた悪です。
「他の企業がやっているので」という理由で「誰も困っていないのに」標準化しようとすると、反発を招きます。
特に「本で読んだので」「こないだAという会社でやっていると聞いたので」というような理由で「俺の考えた最強の組織にします」などとすることは止めるべきです。
最後に
大切なのは「標準化すること」と「標準化すべきでないこと」の判断を明確にし、組織の成長にあわせてうまくバランスを取っていくことです。
困ってなければ標準化すべきではありません。すべきことに集中してください。
これらのバランス感覚は物事が変化し続ける環境に身を置き、判断を重ねることで身についていくものですが、特に新しい環境に飛び込んだとき、リーダーシップを持ってこれらに取り組むと良い効果を得やすいので、是非試してみてください!
本記事は、HRBrain Advent Calendar 2024 シリーズ2の23日目の記事でした。