技術空洞スパイラル

「技術空洞」はSONYがいかに技術空洞と化したか、

技術空洞 Lost Technical Capabilities (光文社ペーパーバックス)

技術空洞 Lost Technical Capabilities (光文社ペーパーバックス)


を元VAIO開発者が描いた本。

書いている人がいかにSONYを愛していたか、
VAIOに注力したか、
に加え、
いかに先進的なことをやろうとする土壌とスピリッツが当時のSONYにはあったか、
が、いかにして今のような腐りきった二番煎じ企業になってしまったのか、
が描かれている。


自由な社風で皆が和気藹々と先進的な技術を用いて盛り上げていこうとしていた頃のSONYの楽しさも伝わってくるし、
凋落に至る道筋も著者の視点において起こったことを念頭にし取材を加え明確に描かれていて、一気に読んでしまった。


第一に長い時間をかけないと偉くなれず、
また偉くなった場合にはそれまでとは桁違いの待遇を得られるため、
その椅子にしがみつく事に必死になり安全を選ぶしかなくなる、
長い時間をかけて人を駄目していくシステム。
意志決定権を持つ人間ほど保身を望む。


技術者が僅かなコストでVAIOに売り(先進的機構)を乗せようとするが、
それを下らない理由で却下し、排斥するために存在する愚鈍で無理解な決定機構。


技術者を人とは思わず、
コスト減の名の下に次々と首切りをしていく馬鹿な人事。


まぁ、この道筋を辿ればゴールはどうみても没落だろうなと思わされる。


中でもAIBOの開発者は一度SONYを辞めた人で、
AIBOの開発にはこの人が必要だ」と役員が直接呼び戻したそうなのだが、
皮肉にも「プロジェクトX」で「AIBOの誕生秘話」が放送された週に愛想を尽かして再びSONYを退社したエピソードが印象的だった。


締めに書かれていた言葉にグッとくる。

私がソニーで紡いできた物語は、こうして終わった。
だが、今でも好きなことをやらせてもらえる昔のソニーが蘇るなら、また帰ってきたいと思っている。それは、ソニーを辞めた人間、誰もが思っているのではないか。
今なお戦場のような社内で戦っている人たちにも、昔のソニーへの郷愁はあるはずだ。私はその戦場から先に逃げ出してしまった。
裏切り者とか脱落者とか思われているだろうし、それは否定しない。
けれど、ソニー復活に協力できることがあるなら、心から協力したいと思っている。

人の思いは死なない。思い出はいつか色褪せてしまうかもしれないけれど、軌跡としてきちんと自分の中に息づいている。
……が、組織がその人の思いを踏みにじる。


そして、これを読んで今までちょっと悪いイメージしか持ってなかった
久夛良木氏は気骨のある人なんだと思わされた。

元々技術畑の人で、
悪い噂も絶えなかったのだろうけれど、
PS3も決して成功とは呼べないけれど、
確かに気骨あるハードだ。
こなれて理解されるのはもっともっと先だろうけど。
SONYがどうあるべきか「解っている」人ではあったんだろうな、と思われたことよ。