水銀虫(朱川湊人)

 「花まんま」の朱川湊人と書くと適切だろうか。直木賞作家が適切だろうか。賞をとっても、資格と同じで力量には関係しないので、こんな呼び方は嫌いだけど。
 とすると自分なら「白い部屋で月の歌を」の朱川湊人、が適切かもしれない。
 さて、今回の「水銀虫」は短編もの。元々短編志向の作家さんなので、どれも程よくまとまっている。「小説すばる」連載のものを加筆修正したもの。
 どれもが底辺に流れる懐かしさを含みつつも「罪を犯したもの」に対する「恐怖」を題材にしており、辻褄があわないところがありつつも、ゾクリとする毒を含んでいると思う。
 いつも雰囲気のある作家さんなので、読みやすくて良本。穢れを持つ人につきまとう罪に関わる恐怖、当然のことかもしれないが、現実ではそうはうまくはいかない。が、そうであってほしいと思わせるところがある。

 過去の虐めに生々しさのある「薄氷の日(うすらいのひ)」、熱病に侵されたようになる少年たちを描く「微熱の日」を恐ろしく感じたかな。
 「死」という言葉を弄ぶ「はだれの日」はあり得そうな気がしてしまう。この作品は「死」という言葉は甘美であるが所詮は他人事なので、軽々しく口にする人が絶えない理由を含んでいる。

「私はバカでぇす! 私はバカでぇす!」

 ちょっと堪えた。

水銀虫

水銀虫